コーチングのやり方や必要なスキルについて解説します。
対話を重視するコーチング
コーチングでは、通常、コーチとクライアントの二人が対話するセッション形式を採用しています。
コーチングセッションでは、コーチングの三原則に基づいて、目標設定から目標達成のための行動計画策定に至るまで、すべて対話を通じて行われます。したがって、セッションでの重要なスキルは、クライアントから的確な情報を引き出す能力や、クライアントに新たな気づきを与える能力です。コーチは、
「質問」、「傾聴」、「要望」、「承認」、「フィードバック」といったスキルを使い、クライアントが
興味深い情報を共有できるようにします。また、信頼関係を築くためにも、「ラポール」を構築することが最重要です。
「コーチングは傾聴と質問」の誤解
よく企業内でコーチング研修をうけた方から、「コーチングは傾聴をして質問することでしょ?」
というお話をよく伺います。もちろん傾聴は重要なスキルで、質問もコーチングにはなくてはならない
重要なスキルですが、それではコーチング風の対話で実行力はありません。それどころか逆効果になって
しまいます。
しかし、部下との定期的な1on1ミーティングなどで、ただ話を聞いて(フリをして)質問(というより詰問)を繰り返すというコーチング風の面談を行っている方々がいます。そんななんちゃってコーチングでは、部下がどれだけストレスを抱えてしまうかが理解できていないケースがほとんどです。
ひどい場合には、部下がメンタル的に不調を訴えてしまうこともあります。
コーチングが日本に入ってきたときに、”Active Lisning”を「傾聴」と訳され、特に企業研修で中途半端なスキルとしてコーチング=傾聴+質問という認識が広まった事も、コーチングは効果がないと言われてしまう理由の一つだと考えています。
効果的な対話を行い、クライアントに有益な気づきを与えるためには、コーチは日々、必要なスキル
をトレーニングし、効果的なコーチングセッションを行います。
コーチングの基本スキルとして、コミュニケーションに関わる技術や心理学や脳科学の知識など、幅広く求められます。
ここではコーチが体得しているコーチングを効果的に行うスキルの一例として、最も基本となる下記について解説します。いずれもコーチングには欠かせない重要なスキルです。
・質問
・傾聴
・要望(リクエスト)
・承認(アクノレッジメント)
・フィードバック
・ラポール
質 問
「質問」は、クライアントの思考パターンや価値観、目標を特定したり、新しいアイデアを引き出すために、重要なスキルです。
自らの成長を促せるような「気付き」の機会を多く持ってもらう質問をしていく事がコーチに求められます。クライアントは、コーチからの質問に答えることで、自分の考えを整理し、新しい視点、気付きを得ることができます。時には、すぐに答えられない質問が投げかけられる事があります。
この場合、普段意識している事柄での回答ではなく、潜在的な情報にアクセスしています。
コーチは基本的にクライアントが回答するまで沈黙もいとわず待ちます。この時間が、クライアント自身
が内省を行う事につながります。内省は、自己に対する内的な探求や反省のことを指し、自分自身の感情や考えを深く理解することによって、自己の成長や変革を促すことができます。
コーチは、クライアントの状態をよく観察し、どのタイミングでどのような質問をすることが最も
効果的かを判断する必要があります。
優秀なコーチは質問スキルが優れており、クライアントに多くの気づきを与えることができます。
コーチングにおいて、質問スキルは非常に重要な役割を担っており、コーチングの成功に大きく関係しているといえます。
傾聴
「傾聴」とは、クライアントの状態を注意深く観察しながら、先入観を持たずに全力で話を聴く事で、
クライアントとの信頼関係構築(ラポール)、情報収集、思考の整理を促進させる重要なスキルです。
傾聴により、クライアントが話しやすい雰囲気が醸成され、クライアントが多くの話をできるように
なります。その結果思考の整理がすすみ、新しい気付きを得ることでコーチングの有効性が高まります
(オートクライン効果と言います)。
コーチは、クライアントが話しやすくなるように、適宜「聞いている」というサインを言語、非言語で
送りながら、最後まで口を挟まずに、話を聞きます。
また、コーチ自身の判断や解釈を抑え、一時的に自分のフィルターを取り除き、相手の言葉をそのまま
受け入れる能力が求められます(これがやってみると結構難しいんですよ)。
これができると、クライアントが聴いてもらっているという安心感を得て、コーチとの”信頼”につながり、さらに多くの事を自然と話していきます。
さらにコーチは、クライアントの話の内容だけでなく、話している表情や声のトーン、テンポなどの
非言語情報にも注目し、クライアントが本当に言いたいことや話す目的、意図を見極め、理解して
いきます。その結果、話の内容だけよりも多くの情報を取得できます。
効果的な傾聴により、コーチは、クライアントの意見や考え、状況、抱えている課題などを”正確に理解”
することができます。これにより、コーチは、クライアントのニーズに応じて適切なアドバイスや
サポートを提供することができます。
傾聴を効果的に行う事で、クライアントは「こんな事まで話すつもりでは無かったのに」という内容
まで話していくことになり、自分自身の感情や考えを整理することができます。
これにより、クライアントは、自分自身の課題に対する解決策を見つけることができます。
傾聴の上位概念である「アクティブ・リスニング」
「アクティブ・リスニング」は、単に話を聴くだけでなく、話をする人の意見や考えを理解するために、
質問をすることや意見を確認することなど、アクションを起こします。
また、リスニング(聴く)の対象は、言葉や表情身振り手振りのレベルでは無く、クライアントの
価値観や思考プログラムをふまえた質問を繰り出す事で、よりクライアントの事をある意味クライアント
以上に理解していきます。
このように、傾聴を含む「アクティブ・リスニング」により、効果的なコミュニケーションを可能にすることができます。
「アクティブ・リスニング」を学びたい方は、コーチングセッションの中で希望の方には教えています。
また、ビジネスコーチ養成講座では基礎的事項としてカリキュラムに入っていますので、体系的に
学びスキルとして取得いただくことが可能です。
★コーチングセッション概要と体験申込みのページを見る→こちら
★ビジネスコーチ養成講座の概要と説明会申込みページを見る→こちら
要望(リクエスト)
「要望(リクエスト)」とは、クライアントが潜在意識で当然できないと思い込んでいる
目標や手段を選択肢に加えるようリクエストするスキルです。
要望を通じて、クライアントが無意識に作っている制限を超えた選択肢を提案し、クライアントの
可能性を大きく広げることができます。要望は、簡潔かつ明確に伝えることが重要であり、指示や
命令口調にならないよう注意が必要です。
ただし、リクエストを受け入れるかどうかは、クライアントの自由意志によって決まるため、
強制することはできません。
承認(アクノレッジメント)
「承認(アクノレッジメント)」とは、クライアントのモチベーションや自己効力感を高めるための
スキルです。よく混同される「ほめる」との違いは、「承認」は、事実・存在をそのまま伝えること
であり、肯定・否定に関わらず、評価を含みません。
承認は英語でいうと「アクノレッジメント(Acknowledgement)」になり、「そこにいることに気づく」
という意味です。いわば、その人にスポットライトを当てるといえるでしょう。
アメリカの映画際であるアカデミー賞の授賞式で、
受賞者が「I would like to acknoweldge(私はこれから次の方々を承認します)……」と始め、
関係各者の名前を次から次へと読み上げる場面があります。まさに承認です。
これは必ずしも褒めるということではなく、「この方たちがこの映画の制作に関わってくれました」
とスポットライトを当てているのです。
コーチングにおいて、クライアントに成長や成果が見られた際に、その変化を言葉に出して伝えることで、クライアントは自身の成長を実感することができます。また、日頃から存在自体を承認する声かけを
行うことも大切です。存在自体を承認する声かけとは、あいさつをしたり、名前を呼んだり、話しかけたりすることです。ごく当たり前の行為ですが、非常に効果的な承認方法です。
その他承認には下記の様なものがあります。
フィードバック
「フィードバック」とは、コーチングに特徴的な重要スキルで、コーチがセッション中のクライアント
の状態や発言から、自身がどのように感じたか、捉えたか、そしてどう見えたかなどを伝えることです。
その結果、クライアント自身が客観的に現状を把握でき、見えていないことに意識が向くように促し、
その結果、「気づき」が生まれます。
適宜フィードバックを行うことで、クライアントは自分が目標達成までの道のりの中でどこにいるのか、
どんな状態にあるのかに気づき、現状認識を新たにすることができます。
フィードバックを行う際は、内容を正確に伝えることが重要です。クライアントが分かりやすいように、
的確な表現を心がけ、以前感じたことなのか、今の状態について言っているのかを明確にする必要があります。
よくある質問として、一般的なフィードバックとコーチングにおけるフィードバックの違いがあります。
一般的なフィードバックは、評価や意見を伝えることを目的とし、具体的な改善点を伝えます。
一方、コーチングのフィードバックは、クライアントの自己認識を深め、問題解決や目標達成への
サポートを提供することが目的です。
コーチングでは、質問を通じてクライアントに自分で気づきや解決策を見つける機会を与え、
コーチとクライアントが対等な関係で協力し合います。また、クライアントの行動や成果を承認し、
自己肯定感や自信を高めることに重点を置きます。
さらに、コーチングではフィードバックが継続的なプロセスの一部となり、クライアントの成長や
変化に応じて適切なサポートを提供し続けます。
これらの違いを理解し、適切なフィードバックを提供することで、クライアントの成長や変革を
効果的にサポートできます。
フィードバックのポイントは、相手に対して伝え方を工夫し、相手の意思決定を促すことです。
具体的な方法として、「Iメッセージ」を使います。「Iメッセージ」は、主語を「私」にすることで主観
であることを示し、感じたことや直感を伝えることで責める感じを和らげます。ちなみに、
「Youメッセージ」は相手に対する評価や意見を伝える表現で、一方的な伝え方になることがあります。
「Weメッセージ」は、コーチとクライアントが共同で問題解決や目標達成を目指すことを強調する表現
です。
例えば、「○○さんが本当にやりたいことは、他の事のように聞こえるのですが。」のように、
「Iメッセージ」を使った表現を用いることが効果的です。
さらに、「どう思われますか?」と投げかけ、フィードバックが合っているかどうかを確認します。
コーチングでは、まず相手の話をしっかりとアクティブリスニングで「聴く」ことが基本であり、
「フィードバックする」前に、相手の心の準備を整えるような前置きをすることも効果的です。
例としては、「気付いたことをお伝えしてよいでしょうか?」などのフレーズです。
このようなフィードバックのポイントを押さえることで、相手の気付きを促し、成長や変革を効果的に
サポートできます。
以上のようなフィードバックのスキルを用いることで、クライアントは自分自身について客観的な視点を
持つことができ、より深い自己認識を得ることができます。フィードバックは、コーチングにおいて
欠かせないスキルであり、クライアントが目標達成に向けて進む上で、重要な役割を果します。
ラポール
「ラポール」とは、語源がフランス語で「Raport:橋をかける」という意味で、相手と自分との間に
橋が架かっている状態、すなわち、 心が通じ合い、互いに信頼し相手を受けて受け入れる状態を示します。コーチとクライアントの間に橋を架けること。つまり信頼関係を構築することです。
クライアントがコーチに対して「この人には何でも話せる」という安心感を持つことで、コーチングの成果が出やすくなります。
コーチは、常に自分の発言や態度に注意を払い、クライアントに信用して話してもらえるよう努めます。
クライアントをよく観察し、クライアントのペースに合わせた会話をすることが重要です。
また、声のトーンや顔の表情、姿勢などもクライアントの波長に合わせ、信頼感を作り出す働きかけ
を行います。
ラポールを築くことで、クライアントがコーチとの関係性に安心感を持ち、自分自身を素直に表現
することができます。そして、クライアントが自己成長を遂げるために必要なことを、より効果的に
取り組むことができるようになります。ラポールは、コーチングにおいて非常に重要な要素であり、
クライアントとコーチの共同作業を促進する役割を果たします。
優れたコーチは、相手の警戒心をとき、好意や安心感を持ってもらうための「ミラーリング」や、
言葉以外の動作で相手との心を通わせる「ペーシング」、話をきいてくれているんだと安心感を持って
もらうための「バックトラッキング」などのスキルを駆使して、クライアントとのラポール形成を行います。また、さらに広義のラポール(メタ・ラポール)として、相手が興味を持っていることや価値観などに
ペーシングするアプローチで強固なラポール形成を行います。
対話で潜在意識の本当のありたい姿を引き出すコーチングにおいて対話が重視される理由は、クライアントとの単純な会話の中では、本当の望みが答えとして出てこないことが多いためです。
意識的に話す望みと、潜在意識の奥深くで本当に望んでいることは異なる場合が多くあります。
また、口に出した目標が自分自身が心から叶えたい目標ではないこともあります。
そのため、丁寧に対話を行い、クライアントの真の望みを引き出す必要があります。
例えば、クライアントが「痩せたい」という目標を口に出した場合、それを掘り下げて、なぜ実現
したいのか、実現したら何が得られるのかを聞いていきます。
すると、「綺麗になりたい」「綺麗になって結婚したい」といった別の望みが出てきます。
更に掘り下げると、「家族を安心させたい」というような新たな思いが出てくる場合もあります。
これらを聞いた上で、クライアントが本当に叶えたい目標は何なのかを対話を通じて導き出します。
優秀なコーチは、クライアントが話す解決したい課題をそのまま解決することはせず、必要に応じ
対話を通してクライアント自身も気づいていない真の課題や目標を導出します。
人は、本当にやりたいことでなければ積極的には動けません。そのため、誤ってクライアントの
本当に願うものではない、〜しなければといった目標を設定してしまうと、当然行動が伴いにくく、
コーチング自体が意味のないものになってしまいます。
また、クライアント自身が目標やなりたい姿を口に出すことができない場合もあります。
そのような場合には、対話を通じて潜在意識にアクセスし、クライアントの内側から答えを導き出し、
クライアント自身に目標を決めてもらいます。
クライアントの潜在意識の中にある本当の望みを知るために、丁寧に対話を重ねます。